東日本大震災で亡くなったママの笑顔の旅立ち

人は亡くなると、肉体はなくなってしまいますが、魂は残り、本来戻るべき場所 (霊界)へと成仏していきます。 

しかし、中には、自分自身の死の自覚が持てなかったり、現世に執着が強かったり、 また心配事があったりすると、

成仏できずに、この地上界に残り続けることがあります。

また、自ら成仏することを拒み、「愛する者のそばに寄り添いたい」と願う魂もいます。

亡くなっても、なお、子を心配し見守る母

今から数年前、東日本大震災に遭い、魂となっても、遺してきた幼い我が子に寄り添う母の魂に出逢いました。

ある夏の日、カウンセリングルームにひとりの女性が訪れました。

石川美津子さん( 60歳)です。

美津子さんは、東日本大震災で、次女(香代さん)とその夫を失いました。

 

美津子さんの亡くなった娘夫婦は、東京都内にある美津子さんの自宅のすぐ近くのマンションに住んでいました。

しかし、娘さん(香代さん)のご主人の実家が津波で被害を受けた地域にあり、震災のとき、その実家にたまたま用事で訪れていた2人も津波に巻き込まれ、悲しい結果となってしまったのです。

 娘夫婦には翼君(当時3歳)という息子さんがいましたが、娘夫婦がご主人の実家に戻られていたときには東京にいた美津子さんが預かっていたため、翼君は難を逃れることができました。

 ただ、翼君は、お母さんとお父さんを一度に亡くしてしまいました。

 

「あんなに可愛がっていた小さい子を遺して、どんなに無念だったか……」

 

美津子さんは、悲痛な思いを涙ながらに語ってくれました。

美津子さんのご相談は、お孫さんである遺された翼君のことでした。

翼君は、娘夫婦が亡くなったあと、不可解な行動をするようになったということでした。

私は美津子さんのお話を伺いました。

 

「翼の母親と父親が亡くなったので、翼は、私と、同居している長女夫婦で育てていくことになりました。

翼の亡くなった両親のマンションは、私の自宅から歩いて行っても5分程度と、とても近い場所にありました。

ある日、翼が突然いなくなり、みんなで必死に捜しました。

すると、翼の両親のマンション、つまり翼が住んでいた家の鍵が、置き場所からなくなっていたのです。

私たちは急いでマンションに向かいました。

マンションの部屋の中に入ると、翼は寝室のベッドに寝ていたのです。

あんなに小さい子が鍵を持ち出して、母親もいないのに自分の家に戻るなんて……。

私たちは、 とても驚き、悲しくなりました。

すぐに翼を連れて私の家に帰りましたが、その日から、翼は頻繁にマンションに行くようになりました。

鍵を隠すと、『おうちに帰る、 ママのところに帰る』と泣いて叫ぶのです。 

私はとても複雑な気持ちでした。翼が可哀想で……。

娘夫婦を亡くした日以降、私は娘のマンションの部屋に入ることができませんでした。

娘たちが生活していた状態がそのまま残っていて、生前は、私も何かにつけて娘の部屋に顔を出していたので、『お母さん、来たの?』なんていう娘の笑顔を思い出すと、つらくて……。

だから、あの部屋には行けなかったのです」 

 

私は、涙ながらに話される美津子さんにお尋ねしました。

 

「では、今でも翼君は、いつもマンションに行かれているのですね?」

 

「はい、そうなんです。でも翼は、そこで不可解な行動をするのです。

翼がどうしてもマンションに行くと言ってきかないので、長女に付き添ってもらい、時々、マンションで数時間過ごさせることにしたのです。 

ある日、長女から『翼の様子が変みたい』と言われ、その様子が私には考えにくいものだったので、後日、様子を見るため、私も翼と一緒にマンションで過ごすことにしたのです」

 

私は、霊視をしながらお話を伺っていました。

 

「不可解な行動は、いくつかあります。

翼は部屋でブロックを一生懸命積んで何かを作っていたのですが、それが完成したところで、『できた、ママー、見て見て!』と言い、リビングに走っていき、『来て、来てー』と手招きをしたのです。 

もちろん翼の視線の先、手招きをした先には、誰もいません。

でも翼は、まるで本当にママがそこにいるかのように話をしているのです。

それから、翼がリビングで絵を描いていたのですが、描き終わると、その絵を持ち上げて、まるで隣に誰かいるかのように、

『ほら見て、描けたよー』と、誰もいない 空間に向かって描いた絵を見せているのです。

まだまだあります。リビングで、翼が突然、『ママ、お腹すいたー』と言いだしたのです。

そして、『ママが、おばあちゃんに作ってもらってねって言ってる』と言うんです。 

突然、ダダダダッとキッチンに走っていき、シンクの前で、顔を見上げるように 『ママ、パパは?』と、空中に向かって話しかけていることもありました。 

こんな翼の行動が心配で、母親を亡くしたショックで、頭がおかしくなってしまったのかと……」

 

私は霊視で見えたことを、すぐに伝えました。

「いいえ、翼くんの頭がおかしくなったということはありませんよ。翼君には、本当にお母さんが見えているのでしょう」

 

「えっ? 幻が見えているのですか?」

 美津子さんは不思議そうに聞き返してきました。

 

「いいえ、幻ではなく、お母さんの魂です。霊です」

 

「娘の……霊ですか? 可哀想に……娘は成仏できてないのですね」

美津子さんは、涙を流しながらつぶやきました。

 

私は、翼君のお母さんとコンタクトを取ろうと試みましたが、うまくコンタクトが取れませんでした。

たまにあることですが、まだ亡くなって日が浅い場合、霊体となっても、まだ霊の体に慣れていないため、うまく想いを送信することができない場合があります。

あるいは、あえて交信を取ることを拒否する霊もいます。

翼君のお母さんの場合、私はなんとなく後者のほうでは? と感じ、その理由はわからなかったのですが、成仏できていないということは間違いなかったので、私は、あるお願いを美津子さんにしました。

 

「どうやら娘さんは、今ここでは、コンタクトすることを拒否している可能性があります。もしよろしければ、私がマンションのほうに、伺わせていただくことは可能でしょうか?」

 

美津子さんは、快く了承してくださいました。

 

後日、私は、娘さんご夫婦のマンションへ伺うこととなりました。

第2話に続きます。

 

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