ひどい親を「許そう」と思わないでいい
ここ数年、母と娘の関係に、かつてないほどに注目が集まっています。
私のカウンセリングにも、多くの方が母娘問題の悩みを抱え、来られます。
「母が大嫌い」
「母にひどいことをされて、許せない」
実は、これらの「許したいけど許せない」は、
「愛されたかったけれど愛されなかった」という思いと表裏一体です。
母子関係の悩みを断ち切る一歩
まゆさん(仮名・ 36歳)も、長年にわたって母娘関係に悩み続けてきました。
初めてカウンセリングに来られた、まゆさんの第一声は、
「私は、母を許せません」 でした。
「いろいろなカウンセラーや霊能者などに相談すると、『母を許さないと、あなた自身が幸せになれないから、許しなさい』とか、『許しは必要なこと』と言われました。
だから、頑張って、自分に言い聞かせてきました。『母を許さなくては、自分が幸せになれない……』と。でも、駄目なんです。
どうしても許せなくて、余計につらくなります。私は、どうしたらよいのでしょうか?」
具体的なお話を聞く前に、私は、まゆさんの生い立ちを霊視させていただきました。
彼女が、どのような気持ちで幼い頃を過ごしてきたのかを知りたかったためです。
まゆさんからは、深い悲しみと自分を責める気持ちが伝わってきました。
そのあとに、鮮明なビジョンが浮かび上がりました。
虐待とネグレクトの繰り返しだったのでしょうか。
つらい気持ちをひとりで我慢して抑えている、小さな頃のまゆちゃんが見えました。
それでも、「ママ、ママ……」と大好きな母親を求め続け、自分を虐待している母を恨まず、一生懸命、母親にかまってほしくて、お手伝いをしたり、手作りのプレゼントをしたり……。そんなビジョンが、私の脳裏に次々と浮かんできました。
私はそれらを、まゆさんに伝えました。
「はい、そうです。私はいつも、母に殴られ、蹴られ、生きることを否定されるようなことも言われました。
でも、今、小林さんに言われて何十年かぶりに思い出しました。
母にかまってほしくて、喜んでほしくて、一生懸命手作りで工作をして、母にプレゼントしていたことを。
一生懸命、床のぞうきんがけや玄関の掃除、トイレ掃除をして、『ママ、見て見 て、キレイにしたよ!』って、母に褒めてほしくて……」
そこで会話が止まり、まゆさんは、しばらく何かを思い出し、考えている様子でした。
「思い出しました……。母に工作したものをプレゼントしても、『うるさい!』と怒鳴られました。掃除をしても、『あんたが掃除すると、もっと汚れるから、余計なことをしないで!』と言われました。そして、そのたび、顔を平手で殴られました……」
まゆさんは、目に涙を浮かべながら、少しずつ、子どもの頃のことを話してくれました。
さらに私は、霊視を続けました。
まゆちゃんは、悲しくて寂しくて、ママに愛されたかった。
でも、愛してはもらえなかった。 そして、「自分が悪いのだ……」と、自分を責めていたようです。
「自分が悪いのだ から、泣いてはいけない」と、泣くことさえ我慢している様子がうかがえました。
私は、まゆさんに尋ねました。
「まゆさん、呼吸が苦しくなったり、喉に詰まり感があったりという症状が、よく出ませんか?」
まゆさんは、すぐに答えてくれました。
「はい、あります。呼吸が苦しくなったりするのは昔からです。
今まで何度も病院に行っても原因がわからないのですが、喉に何かが詰まったような感覚が取れなくて、
食べ物を飲み込むのも苦しいときが、年に数回はあります」
「そうですよね。まゆさん、泣くことを我慢してきませんでしたか? 泣いてはいけないと。そして、『自分が悪いのだ』という自責の念を抱えてはいませんか? 私には、そのように感じられるのですが……」
まゆさんは少し驚いた顔を見せました。
「そうです。私は泣くことを我慢してきました。『泣いてはいけない』と。そして、 ちょっとしたことでも、『私が悪い』と思ってしまう癖があります」
「そうですよね。まゆさんの小さいときの感情と抑圧感は、今も、まゆさんの考え方や体の状態に反映されているのです」
私が告げると、まゆさんは、うなずきながら目頭を押さえていました。
まゆさんの呼吸が苦しい感じや喉の詰まり感は、感情や泣くことを抑えていた抑圧感で、外に吐き出すことができないエネルギーによって引き起こされていたのでした。
人は感情を抑圧しすぎると、体が反応して、さまざまな症状を引き起こします。
まゆさんの場合もそうだったのです。
「実は……」
まゆさんは、現在、対人関係で苦労していることも話してくれました。
「小林さんが言われている、小さい頃のことが原因なのでしょうか?
実は今も、私は対人関係でとても苦労をしています。疲れてしまうのです。
人と会ったあとは、自分に対する罪悪感のようなものが襲いかかってきます。
そして、すごく人の目が気になります。
何かを頼まれたら、断ることはできません。
友達がグループで話をしていると、何か私のことを話しているのでは……と、ビクビクしてしまいます。
親切にしてもらっても、すぐに『裏切られるのではないか』と不安になってしまうので、なかなか人を信用することができません。
そして、『嫌われたらどうしよう』と考えて、嫌われないように演技している自分に、さらに疲れてしまうのです……」
「演技とは?」
私は聞き返しました。
「いつもニコニコして、何でも引き受けてしまいます。仕事も休みを返上してまで頑張ってしまいます。でも、引き受けたあとは、必ず後悔します。
ほかにも、何でも相手に合わせてしまいます。自分に予定があっても、それをキャンセルしてまで相手に合わせてしまいます。
そして、私は人にプレゼントをあげる癖のようなものがあり、誕生日でもないのに、相手が喜ぶだろうと思うモノを購入してプレゼントします。
でも、喜んでもらえることは嬉しいのに、さらに見返りも期待してしまうのです。
そして、相手から何も見返りがないと、ひどく落ち込み、死にたくなることもあるのです……。こんな私、変ですよね」
まゆさんは、当初の「母が許せない」という相談から、さらに対人関係の苦労に悩んでいることを打ち明けてくれました。
この2つの悩みは、実は、ひとつの問題としてつながっています。
まゆさんが抱えている現在の対人関係は、小さい頃、お母さんに振り向いてほしくてしていた行為と同じことを、他者に対して再現しています。
他人との関係に、お母さんへの思いを投影してしまい、得られなかった愛情を無意 識に取り戻したいという、「取り戻しの行為」を他人にしてしまっているのです。
「プレゼントを贈って、相手の見返りを求めてしまう」という気持ちは、「お母さんにかまってもらいたい、見てもらいたい」という思いの投影です。
そして、その行為に対して、相手からリターン(見返り)がないと、
「お母さんは、私を愛していないんだ」という子どもの頃に拒否をされた絶望感の気持ちと結びついて不安になり、
自 分の存在を消してしまいたくなるという気持ちに駆り立てられてしまうのです。
ですので、まゆさんの対人関係の悩みは、すべて「お母さんとの関係」を焼き直ししている状態です。
これらすべてをまゆさんにお伝えしたところ、驚きとともに、深く納得してくれました。
「そう言われてみると、本当にそうだと思います。 私が対人関係でやっていることは、小さいときに母に振り向いてほしくてやっていたことと、まったく同じです」
私は話を続けました。
「まゆさんは、『お母さんを許すことができない』と思っているのですよね。 でも、無意識にお母さんに振り向いてほしいという気持ちを、今も他人に対して行 動化してしまっているのに気づかれましたよね。
お母さんを『許せない』と思っているうちは、自分に振り向いてくれるまでの取り戻しの作業を、他人を通して延々と行ってしまいます。
これでは、自分自身の人生を台無しにしてしまい、苦しい生き方をすることになってしまいます。
お母さんを許そうと意識することが、心の中に『お母さんに対する、とらわれの気持ち』を生み出してしまっていて、結果的に、自分の気持ちを大切にできなくしてしまっているのです。
そうではなく、『自分の気持ちを大切にすること』が、これからのまゆさんの行うべきことです。『とらわれのない人生』を自分で作り出すことができますよ」
「『母を許す』と思わなくてよい、ということですか?」
「そう、許すとか許せないという気持ち自体がとらわれなのですよ。なので、そのようなことを思う必要もないし、もちろん、許す必要すらないのです」
「許さなくてもいいんですね……」
まゆさんは、何度も深くうなずいていました。
あなたを傷つけた人のことを許さなくていい
「あなたを傷つけた人を憎むのではなく、許しなさい」という言葉をよく聞きます。
しかし、当人は、傷つけられ、長年苦しみ続けてきたのです。
自分を苦しめてきた人のことを「許せない」と思うのなら、無理に許さなくてよいのです。
なぜなら、あなたを長い間苦しめてきた相手は、自分のことを一番に愛していた。
だからあなたのことを傷つけてきた。
もし、あなたのことを本当に大切に思って愛していたのであれば、愛する人をそこまで苦しめてこないはずです。
ですから、そのような相手のことを許そうとは思わなくてもいいですし、相手の気持ちに振り回されなくていいのです。
しかし、だからといって、憎むこともしなくていいのです。憎しみを募らせるほど、自分の心も連動して、さらにつらくなるからです。
あなたに必要なことは、「自分を大切にすること」です。 「自分自身の気持ちを大切にすること」が、何よりも大切なのです。
自分の人生は、紛れもなく自分のもので、相手のものではありません。
あなたが相手に対する気持ちに振り回されない人生を過ごせるようになったと きには、「許す」「許せない」という気持ちも、おのずと薄れていきます。
それが、本当の「許し」ということでもあります。
「自分を大切にすること」は、心のとらわれをなくし、自分自身が楽しめること、笑えること、喜べることを行うことです。
自分の人生は、いかようにも、自分の気持ちで作り上げていくことができるのです。
まゆさんも気づいてくれました。
「『自分を大切にすること』を、今まで考えたこともありませんでした。 自分の幸せは自分で作れるのですね。 今日、たった今から、私の人生を考えて生きていこうと思います」
数カ月後、まゆさんからメールが届きました。
「カウンセリングをして、心の重荷がストンと取れました。
今は、誰の目も気にせず楽しめて、そして嫌なことは断ることができるようになりました。『何か吹っ切れた!』という感じです。
お付き合いをしている彼とも、知り合って7年越しでしたが、なかなか結婚に踏み切れずにいました。
それは、心が母にとらわれていたからです。
自分を大切にすることを考えられず、彼と結婚して幸せになる自信がなかったからです。
でも、カウンセリングのあと、「自分の人生は自分で作らなければ!」と思い、
彼と新しい家族を自分の手で作り上げていこうと、やっと結婚することを決意しました」
心を自由にすると、行動が制限されない
私たちは人生において、さまざまな選択を行うことが可能です。
学びの道は、あらかじめ決められた一本の道だけがあるわけではなく、私たちは意識的に、ときには無意識に、自分自身で道を選択しています。
私たちは、自分の未来を作り上げる選択をすることが可能なのです。
しかしながら、心にとらわれがあると、自由な選択ができず、自分自身の行動を制限してしまいます。
恐れや不安から前に進むことができず、かえって苦しい状況から抜け出すことができずに足踏みを続けてしまいます。
そのようなネガティブ思考(恐れに基づく思念)は、生まれ育ってきた途中で、
主に環境(親)から作り出されていることが多く、それが心のとらわれとなってしまい、自分自身の生きる道に制限をかけることになってしまいます。
何かにとらわれず、心が自由でいることは、幸せに生きるための第一歩です。
自分を大切にして、生きてください。
自分の人生は、「自由意思」により、いかようにも作り出すことができるのです。
行きにくさを背負った道も、充足感あふれる道も。
そして、怒りの人生も、
喜びにあふれた人生も……。