息子のいる海に捧げる〜亡き息子へのピアノの調べ〜


「本当に神様がいるのなら、夢の中でもいいから息子に会わせて欲しい・・・。」

ピアニストであるKさんは、息子さんを亡くされてから、演奏活動を行えなくなっていました。

 

今から数年前の夏・・・

私の娘がピアノを習いたいと言い出しました。たまたま当時、私の自宅からそう遠くない場所で、以前はピアニストとして知られていたKさんが現在は指導をしているという事を知り、私はそのKさんに面談をお願いしました。

 

面談当日、忘れもしない、あの日は、Kさん宅に向かう途中、突然のゲリラ豪雨に遭い、雨に濡れながらKさん宅に到着しました。この日は娘の体験レッスンでは無く、有名なKさんに初心者の娘が大丈夫なのかどうかお話を聞くために、私一人で伺わせていただきました。

 

インターホンを鳴らし、中からKさんが出てきました。笑顔で挨拶をしながら中に入ったのですが、その時に、一瞬、私は思わず立ち止まってしまった事を覚えています。何故なら、玄関に入った瞬間にとても寒気を感じたからなのです。私の体が雨で濡れているから?とも思ったのですが、すぐにそうではない事が分かりました。その家の中にある霊の気配を強烈に感じ取っていたからでした。

 

「中へどうぞ」とKさんに通された部屋は、40畳ほどもあろうかという大きな部屋で、イギリスの物と思われるアンティーク家具に、2台のグランドピアノのあるとても素敵な部屋でした。でも、私はその部屋のある一角に目を向けた時に、とても違和感を覚えたのでした。部屋の片隅に、白衣が飾られていたのです。

 

「何故、ここに白衣が?」そう思いながらも、Kさんとは娘のピアノのレッスンの話が始まりました。話をしながら、私はとても部屋のドアが気になったのでした。部屋のドアは、木製の枠に曇りガラスがはめ込んでありました。ドアの向こうはまっすぐな廊下です。私は話をしながらも、何度も何度も、ドアの方向に目を向けました。

 

ドアの向こうを気にしながらも、娘のレッスンの内容についてなどを伺っていたのですが、話も終わりに近づいた頃、ずっと気になっていたリビングのドアに再度目を向けた瞬間、人影が見えました。半透明のガラス越しの廊下側に、はっきりと人の影が映っていたのでした。

 

私はKさんに「次の生徒さんいらしていませんか?ドアの外でお待ちではないですか?」と声をかけてみました。でも今思えば、それは生きている人の気配では無いことを私は知っていたはずですが、何故そのように尋ねたかは分かりません。何となくそのように聞きたくなったのでした。

 

するとKさんは「いいえ、今日は次の時間の生徒さんは、たまたまお休みなんですよ。」と答えました。そしてもう一度そのドアに目を向けた瞬間、私は身体中が硬直してしまったのです。

きっととても顔色も変わったのでしょう。Kさんが、「どうかされましたか?」と不思議そうに聞いてきました。私は、何も答えられず、そして、何と答えて良いのかと考えていました。

 

私が目にしたのは、全身ずぶ濡れになった20代ほどの男性が立ちすくんでいる姿だったからです。もしKさんが私のお客様であれば、すぐにこの事をお話しします。でも、この時は、私はピアノのレッスンのお話を伺いに来ていただけで、もちろんKさんも私がスピリチュアルカウンセラーの仕事をしているという事はご存じ無く、まして、霊的な事を信じるかどうかもわからない相手にいきなりそのような話を持ちかけては、不愉快な思いをさせてしまうのでないかと考え、この事はお伝えせずに、レッスンの話を続けました。そして、そろそろ失礼しようかと思ったところ、Kさんが突然、ある話をし始めたのです。

 

「この部屋にあるあの白衣、何だろうと思ったでしょ・・・。」

 

突然のこの言葉に、私は、「あの白衣ですか?」と聞き返してみました。

 

「そう・・・、あれはね、息子が着ていたものなの」

 

私は、その言葉を聞いた瞬間、リビングのドアのところにずぶ濡れで立っているのは、Kさんの息子さんだということがわかりました。

Kさんは話を続けました

 

「息子はね、医師だったの。ダイビングが大好きで、休みのたびに、日本や海外の美しいダイビングスポットに行っていてね・・・。そして、そこで亡くなったのよ、一昨年に・・・。
息子の仲間のダイバーの方に聞いたのだけどね、息子の亡くなった場所は、とても美しいダイビングスポットで、とても魅了されるほど美しい場所ではあるけど、その先は決して行ってはいけないと言われている場所だったそうで・・・。
そこに向かう息子の後ろ姿をダイビングの仲間が見かけたのが最後で、止める間もなかったと・・・。息子はそのまま帰らなかったの。遺体も見つからなかった。」

 

突然このような話を聞かされた私は驚いていたのですが、これは、息子さんの霊の導きによりKさんは「話させられている」のです。息子さんは何か訴えかけたいことがあるのです。霊媒である私を使い、何とか、お母さんに伝えたい事があるために、このような話になるように仕向けているのが私には分かりました。私はそのままKさんのお話を伺っていました。

 

「私は、それから何度もその海に行って、海に向かって息子の名前を呼んだの。この美しい海の中に息子がいると思ったら、叫ばずにはいられなかった・・・。飛行機で東京に帰る時も、空から海を・・・、息子のいる海を眺めていると、息子が私を呼んでいる声が聞こえてくるようでね・・・、「お母さん」って。涙が止まらなかった・・・。私の大切な一人息子だった。私は息子の父親とは早くに離婚して、女手一つで育ててきたの。親思いのいい子でね・・・。

私はそれから毎日、神社に行って、神様に必死でお願いをしていたの。夢の中でもいいから、どうか、息子に会わせて下さい。一目息子の姿に会わせてくださいと。でも、どんなにお願いしても、息子は夢にすら現れてはくれなかった・・・。私は神なんか信じない。本当に神様がいるのなら、こんなにもお願いしているのだから、せめて夢の中で会わせてくれるはず。」

 

私は、とても悲しい気持ちでKさんの話を聞き続けていました。

 

「ごめんなさいね、急にこんな話をして。何故だか、あなたにはとても話したくなったの、不思議ね、こんな話、私、生徒さんにもした事無いのに・・・。」

 

私は「いえ、全然構いません。息子さん事故に遭われたのですね・・・。」と、言葉がけするのが精一杯でした。息子さんは、今、Kさんのすぐそばにいる事をどんなに伝えたかったか、しかし、それを伝えられずにいる事に、とてももどかしさを感じました。

息子さんが、ずぶ濡れの状態でお母さんを心配しながらすぐそばにいる、成仏していない事など、どうして言えるでしょうか。かえって悲しみを深くさせてしまうと思ったのです。Kさんは何よりも大切な息子さんを失い、心が氷ついてしまっているのです。

 

Kさんは話を続けました

 

「私の手を見て。この手はね、もうピアニストとして機能しないの。息子を亡くした直後から、私の手は硬直して動かなくなった、もうまともな演奏が出来なくなったの、だから、今は、教えることしか出来ない。神様は私の息子と、私のピアニストとしての人生と、大切なもの全てを一瞬にして奪った。

私はどう生きていけば良いのか・・・。息子の後を追って死にたかった。でも、それも出来なかった。今は、ただ生かされているだけ・・・。」

 

私はこのとても悲しい話を聞いていることしか出来ず、その日は自宅に戻りました。

 

自宅に戻った後も、ずっとKさんの部屋でのことを考えていました。息子さんの事を伝えた方が良いのか。でも、霊的な世界を信じるかどうかも分からないKさんに、このような話をしても、なんの慰めにもならないのではないか・・・、そのようなことに頭にめぐらせながら、Kさんの話を思い出していました。しかし、私は決心をして、Kさんに、どうにかこの事実を伝えようと思ったのです。

 

私は話の切り口を「霊視」と言う事ではなく、「音楽」にしようと考えたのでした。

 

私はスピリチュアルカウンセラーですが、作曲活動もしています。私が作る曲は、クレアオーディエンスという霊聴を使い、霊界側より音を受け取り曲にしたものです。

 

いきなり、霊視的な視点で息子さんがそばにいることを伝えるより、まずは共通の「音楽」を用いて、話をしていくことの方が良いのでないかと考え、まずは、クレアオーディエンスで音のメッセージを受け取る事にしました。そして、その音を曲にしたのです。そして、数日後、再度Kさん宅を訪れました。

 

Kさんは、私に「先日は私の話をしてしまってごめんなさい」と謝られたのですが、私も色々とお話がしたいです、と伝え、「今日は、私が作曲した曲をお聴きいただけますか?」とピアノをお借りしてKさんに曲を聴いていただくことにしました。

 

私がこの日のために作った曲を弾き終わると、Kさんは涙を流していました。

 

「素敵な曲です。どうしてこのような曲を・・・。この曲を聴いていると、暖かく、息子を傍に感じられるんです。私のすぐそばにいてくれているように・・・。」

 

私はホッとしました。そして、話を続けました。

 

「息子さんは、Kさんが今感じたように、いつでもそばにいてくれているんですよ。」

 

Kさんは、小さく首を横に振りました。

 

「息子さん、いつもKさんの好きなおかずを一緒に食べようと持って来てくれましたよね。」

 

Kさんは、顔を上にあげ、驚いた表情をしました

「えっ、そうです、そうですとも、息子はいつも私を気遣って、一人暮らししても、自分で料理したものを私に一緒に食べようと持ってきてくれていたんですよ。でも、どうしてそれを・・・?」

 

「それは、この曲を弾きながら、息子さんがそう言っているように感じたんです。私が感じた事、その通りなんですか?」

 

「そうですとも、その通りなんですよ」

 

「では、きっと息子さんがお母さんに、自分はお母さんのそばにいるよって伝えたかったのかもしれませんね・・・。」

 

Kさんは涙しました。

「素敵な曲を有難う、本当に有難う、息子の話、その通りで、私には息子の姿が見えなくても、息子はちゃんと私のそばにいるんですね。」

 

「そうです、たぶん、息子さんは、お母さんにまたピアノを弾いて欲しいと思っているのではないでしょうか・・・。私はそのように息子さんが言っているように感じます。」

 

「私にまた弾けるかしら・・・。」

 

「きっと弾けますよ・・・。」

 

それから数ヶ月が経ち、季節は、空気が冷たく星空が綺麗な冬に変わっていました。私は、犬の散歩で、Kさん宅の前を通り掛かりました。いつもは散歩コースではないのですが、なんとなく足が向かったのです。すると、Kさんのお宅から、美しいショパンの曲が聞こえてきました。

 

「生徒さんかしら?でも、とても美しく素晴らしい演奏・・・。」

誰が弾いているのかはその時はわかりませんでしたが、数日後、Kさんよりメールが届きました。

 

「あの時は素敵な曲を私のために弾いてくださり有難うございました。あの時から、私は息子がそばにいてくれていることを感じられるようになりました。小林さんが弾いてくださった曲を聴いている自分を思い返しながら、私も誰かの為に、自分の奏でた曲を聴いていただけるように、もう一度、演奏したいと思いました。すると、なんと、硬直していた私の手が、氷が解けるように柔らかくなったのです。心の氷が解けたのと同時に。私はあれから、今までを取り戻すかのようにピアノを練習し、実は、先月、チャリティーコンサートを行いまして、多くのお客様が私の曲を聴きに来てくださいました。このチャリティーコンサートは、大切な人を亡くし心傷ついている人々が、前向きな気持ちを取り戻せるようにと、企画して開催しました。私のピアニストとしての復帰の大切な幕開けにしたかったのです。
皆さんの笑顔や喜んでくれている姿を見て、大切なものを取り戻せました。これからは、多くの人に、私の演奏をお伝えし続けることで、息子も喜んでくれるのだということを忘れずに生きていきたいと思います。」

 

Kさんの凍りついていた心に光が差し込まれて、指を覆っていた氷が溶けていったのです。

 

人の心と体は連動しています。心が大きな悲しみや抑圧に耐えられなくなると、体がそれに反応して、Kさんのように、筋肉が硬直して思うように動かなくなることがあります。その症状は、筋肉硬直であったり、体の痛みであったり、喉のつまり感であったり、

声が出なくなったり、という、様々な症状として発症します。病院で検査をしても原因不明として病名がつかず、しかし、そのような病症で同様に苦しんでおられる方を今まで霊視カウンセリングで多くお見受けしてきました。

 

Kさんの場合は、息子さんを失った大きな悲しみから、筋肉硬直が起きていたのですが、息子さんの魂がそばにいてくれていることを、息子さんの「おかずのメッセージ」より感じることが出来た瞬間に、その安堵感から、体の硬直が緩み始めたのでしょう。

 

Kさんは、現在は再びピアニストとして、演奏活動で忙しい日々を送られています。

 

私の娘は、まだまだ初心者ですので、お恥ずかしく、Kさんの元ではピアノは習いませんでしたが、でも息子さんがお母様にメッセージを伝えたくて、私を引き寄せたのでしょう。

Kさんの息子さんも、安心して成仏され、天国(霊界)よりお母様の一生懸命な姿を見守り続けて行く事でしょう。

 

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