亡くなった人の想いは、人を優しく包み込む

亡き恋人から、ネックレスの贈り物が届いた日

季節は秋。 

私のカウンセリングを受けに訪れた高村里香さん(29歳)は、この一年ほど体調が悪く、外にはほとんど出られませんでした。

ひとりでカウンセリングルームまで来るのも困難なため、お姉様に付き添われて来られました。

一年ほど前、里香さんは婚約者を不慮の事故で亡くされていて、それ以降、体調がすぐれないとのこと。

そのことがカウンセリングの相談内容でもありました。

目の前にいる里香さんは、伏し目がちで、話し声もとても小さく弱々しいもので、気力が感じられない印象です。

 

「私はこの先、どうやって生きていけばよいのでしょうか……」

 

 涙ながらに、里香さんは話し始めました。

 

「誠也(里香さんの婚約者)は自動車事故で亡くなりました。居眠り運転のトラックが、対向車線から誠也の運転している車に向かって飛び込んできたのです」

 

そう言うと、里香さんは泣き伏してしまい、しばらくして落ち着いたところで、話を再開しました。しかし、声は途切れ途切れ……、深い悲しみが伝わってきました。

 

「私と誠也は中学からの同級生です。付き合い始めたのは高校2年生からです。本当にいつも優しい人でした。

高校時代、頭の良い彼は、理解力のない私にいつも一生懸命に勉強を教えてくれて、東京の大学に行くと決めていた彼に追いつけるように、私も一生懸命、勉強しました。

本当に一生懸命に……彼と一緒にいたかったから。彼は私のために、いろいろな教科のテキストもわかりやすく作ってくれました。

そして2人とも同じ大学に合格しました。そのときは、手を握り合い、飛び上がって喜びました」

 

そこまで話すと、里香さんはうつむいたまま肩を震わせました。

そんな彼女を、隣にいるお姉様が、背中をさすりながら心配そうに見つめていました。

 

「彼、とても優しかったんですね。里香さんの心の中には、彼との思い出がたくさんあるのですね」

私には、彼女の話から、どれほどお互いを思いやりながら過ごしてきたかが、よく伝わってきました。

 

しばらくして、里香さんは続きを話し始めました。

 

「思い出話のようになってしまい、すみません。大学に行っても、趣味が同じだったので、同じサークルに入りました。彼は、みんなから慕われる人で、私もとても楽しい日々でした。

いつでも彼と一緒でしたし、当然、彼以外の人と付き合うなんて考えたこともありません。私の一部であり、信頼できる人です。彼は大学院に進み、私は先に就職したけれど、気持ちはいつも離れることなく、信頼し合っていました。

誠也が大学院を卒業し、就職して3年が経った頃、『そろそろ結婚しようか』と結婚に向けて準備を始め、一緒に住むマンションを探し、2人が気に入ったマンションを購入しました。 

その矢先、彼の子どもがお腹にできました。彼はとても喜んでくれました。彼のご両親も、中学時代から同級生の私のことはずっと知っていますから、家族ぐるみのお付き合いをしていたこともあって、孫ができることをとても喜んでくれました。

お腹の子が安定期に入り、まだお腹も大きくならないうちに早く結婚式を挙げなくてはと、結婚式の用意を始めました。

彼は気が早く、結婚式と子どもの出産に向けて、ベビーカーとかベビーベッドとか、すぐに購入して、新居のマンションに運んでいました。なのに、なのに……」

 

里香さんは、ここでまた取り乱して、大きな声で泣きだしました。

隣にいたお姉様が続きを話してくれました

 

「結婚式の2週間前、誠也さんのお兄さんから里香に電話があり、『誠也が事故に遭ったので、すぐに病院に来るように』と。

私も里香から電話をもらって、すぐに駆けつけました。私が病院に着いたときには、里香も取り乱していて、誠也さんのご両親、ご家族も号泣していました。 

そして……。それから数日後、誠也さんの葬儀の日に、里香はお腹の子を流産しました。

なぜ里香は、このようなつらい目に遭うのでしょうか。どうして、お腹の子どもまで、たったひとつ誠也さんが残してくれた彼の分身だったのに……」

 

私も、ここまでの話をお聞きし、言葉を失いました。

 

「私は、もう生きていけない。どうやって生きていけばよいでしょう? 私も誠也のところに行きたい……」

 

私は、何か里香さんのためにできることはないかと考えました。そして、『いま彼女に必要なのは、誠也さんの言葉だけだ』と思い、誠也さんとの交信を始めました。 

誠也さんとの交信は、自動書記で受け取ることにしました。誠也さんからのメッ セージを手紙のように書き出し、それを里香さんに渡そうと思ったのです。 

私は、しばらく時間をいただき、交信とメッセージを受け取ることに集中しました。

 

〜誠也さんから受け取ったメッセージ〜

「里香、ごめん、本当にごめん。ひとりぼっちにしちゃったね。僕はいつも、里香のそばにいるんだよ。

里香を抱きしめようとしているけど、すり抜けてしまって、里香の感触を感じることができないんだ。

それを何度も何度も繰り返しているうちに、僕はこんなにそばにいるのに、本当に里香には見えないんだ……と、

悲しんでいる里香に何もできない自分の無力さが悔しい。

本当にごめん。でも僕は、これからもずっと、いつまでも、里香が悲しんでいるときは、里香には見えないけれど、里香を励ますよ。

そして、里香が喜んでいるときも、一緒に喜ぶよ。約束する、信じてほしい。

里香には幸せになってほしい。誰よりも傷つきやすくて、誰よりも優しくて、誰よりもおっちょこちょいだから……。

だから僕が、ずっと守ってあげたかった。

里香には誰よりも幸せになってほしい。

いつか必ず、里香を守ってくれる人と結婚して、里香が守るべき子どもを産んで、その家族を大切にしてほしい。

僕との約束だ。僕も、いつもそばにいるって約束する。

里香の洋服のポケットには、ネックレスがあるよ。

それを見つけたら、僕がそばにいるって信じてね」 

ここで、彼の通信文は途切れました。

 

私はメッセージを受け取りながら、必死で涙をこらえていました。

彼からの手紙を里香さんに渡しました。

里香さんは手紙を読み始め、途中で涙をこぼしながら、「彼らしいです、彼の言葉だってわかります……」 と言いながら、手紙から目を話そうとはしません。 

 

「誠也が言っている『ネックレス』に心当たりがあります。私の誕生日に誠也と記念 旅行をしたのですが、旅行先のアクセサリー店に入って、プチネックレスをプレゼントしてくれたんです。

『婚約指輪の前の、独身最後のプレゼントだな』って言って。 

でも私、旅行から帰ってきて、大切なネックレスなのに、なくしてしまったんです。

彼に何度も何度も謝りました、彼はガッカリしながらも、『でもいいよ、今度はもっと大きなダイヤの指輪を買いに行こうな』って笑って許してくれたんです。 

そのあとも、私はネックレスを捜していたのですが、やはり見つからなくて……。

自宅に戻ったら、すぐに洋服のポケットを捜してみます。この手紙、いただいてもいいですか?」

 

「もちろんです、里香さんへのお手紙ですから」

 

ここで、カウンセリングは終了しました。

このカウンセリングで、里香さんの心を癒やすことはできませんでしたが、彼からの手紙が、何かしら、里香さんが前向きに生きられるきっかけになってほしいと願うばかりでした。

1週間ほど経って、里香さんからメールが届きました。

〜里香さんのメールより抜粋〜

「先日は、カウンセリングをしていただいてありがとうございました。

あれから自宅に戻り、何度も何度も手紙を読み返しました。

そして、手紙を読んでいるうちに、あることを思い出したんです。

昔、彼と冗談で『もし、私が死んだらどうする? 誠也ひとりになっちゃうね』と言ったことがあって、そのときは誠也も冗談で『ひとりになんかならないよ、すぐに 彼女つくるもんね〜』と言ってふざけ合っていたのですが、逆に誠也が『じゃあ、俺 が先に死んだらどうする?』って聞いてきたので、『じゃあ、私はすぐに誠也の後を追いかける』と冗談っぽく言いました。 

そのとき、誠也はとても真面目な顔して、『もし俺がいなくなったら、里香は優しくて里香のことを守ってくれる男と一緒になれよ。そして、子どもを産んで母親になるんだぞ。家族を作るんだ、必ず幸せにならないと』って言ったんです。 

今回の誠也からの手紙でも、同じことを言っています。たしかに誠也は、そう言っていたことを思い出しました。

そして、大きな報告です。

自宅に戻ってから、ネックレスがないかと、あらゆる洋服のポケットを捜してみたのですが、やはり見つかりませんでした。

でも今日、写真を整理していたら、誠也がネックレスを買ってくれたときの誕生日旅行の写真が出てきました。

そのとき私がはいていたスカートに目が留まり、思い出したんです。

このスカートは、ちょっときつくて、旅行から帰ってきたあと、『少し痩せればきつくなくなるだろう』と、洋服ダンスにしまい込んだままだったんです。

それから出したことがありませんでした。それを思い出して、すぐに洋服ダンスから スカートを出して、ポケットの中を見てみたら、

あったんです、ネックレスが。 

きっと、さんざん捜しているのに見つけられない私の姿を、誠也はそばで見ていて、 私に旅行の写真を見るように仕向けてくれたのですね。

写真を見るのがつらくて、 ずっと避けていたのですが、今日はなぜか、どうしてもアルバムが見たくなったのです。

あの写真を見なければ、あのスカートのことは、すっかり忘れていました。

誠也は本当に私のそばにいてくれるってことが、私、やっとわかりました。

本当にありがとうございます」

 

このメールをいただき、里香さんが誠也さんの存在をそばに感じてくれ、気持ちが少しでも前向きになってくれたことを、とても嬉しく感じました。

 

そして、あれから3年ほど経ったある日、突然、里香さんからご予約のメールをいただきました。

 

「ご無沙汰しています。3年前に伺わせていただいた高村里香です。その節はありがとうございました。いろいろとご報告を兼ねて、伺わせていただきたいです」

私は、またお会いできることをとても嬉しく思い、予約日当日を迎えました。

里香さんとは3年ぶりですが、あの頃とは見違えるように生き生きとし、かなり ふっくらした感じにお見受けしました。 

そして里香さんは、3年前から現在までのことをお話ししてくれました。

 

「3年前、誠也からの手紙を受け取り、そしてネックレスが見つかったことで、誠也は『魂になっても私のそばにいてくれるんだ』とわかり、『生きなくちゃ』と思いました。

『優しく守ってくれる人と結婚して、子どもを産んで母親になって、家族を持って幸せになってほしい』という誠也の言葉に、『私だけ幸せにはなれない』と強く思いましたが、何度も何度も手紙を読み返しているうちに、誠也の声が聞こえるような気がしたんです。『幸せになれよ』って。 

それで、実は私、1年半前に結婚したんです。それをご報告したくて」

 

私は驚きと嬉しさで、心底、温かい気持ちに包まれました。

さらには、何と男のお子さんも誕生されて、今、生後2カ月だそうです。

二重に嬉しいご報告をいただきました。

 

「あれから、自分が幸せになることを自分に許可しました。それが誠也のためでもあるのだと。結婚相手は、ひとつ年下の大学のサークルの後輩で、誠也のこともよく 知っている男性です。誠也が亡くなったあとも、ずっと励まし続けてくれました。 

主人は、『誠也先輩に負けないくらい大切に守るから、結婚しよう』と言ってくれ て、『幸せになってはいけない』と思っていた私の心を少しずつ和らげてくれました。 誠也が「こいつなら大丈夫だ!」と言ってくれている気がして……、そして、子どもも生まれました。そして、不思議なこともあったんです。 

実は私、出産のとき、出血多量で輸血をするほど大変だったんです。

意識を失って、一瞬、深い闇に入ったような感覚に陥り、周りの声も意識も遠のいて、暗闇に包まれたんです。

そうしたら、『里香、頑張れ、里香!』と誠也の声が聞こえたんです。そして、暗闇の中で目を開けた私には、おぼろげにですが、誠也の姿がぼんやり見えたんです!

次の瞬間、赤ちゃんの泣き声が聞こえ、目の前の誠也が笑顔で微笑んでいました。 そこで夢から覚めるように意識を取り戻して、赤ちゃんと無事に対面することができました」 

 

「誠也さんは、里香さんのそばで応援していてくれたのですね。里香さん、ご家族と一緒に幸せになってくださいね。それが誠也さんの一番の願いです」

 

「主人が、子どもの名前を『誠一』にしたんです。誠実さを一番大切にしてほしいと。

でも、私には言わないけれど、わかるんです。

誠也に対しての気持ちの意味合いも込めて、誠也の一字を取って、この名前をつけたんだなって」

 

「ご主人様、とても誠実な人ですね。誠也さんが『こいつなら大丈夫!』と言っているだけありますね!」

「誠也、やっぱりそう言っていますか?」

「はい、言っていますとも」

 

3年前とは違い、笑顔でカウンセリングを終えられたこと、里香さんが幸せに向 かって歩き始めていたこと、とても嬉しく思いました。 

愛する人の幸せを誰よりも願いながらも、「もう自分が幸せにすることはできない」 という誠也さんの気持ちがとても切ないのと同時に、

いつまでも深い愛情で見守り続 けた「魂の真の愛」を私も教えられました。 

愛する人は亡くなったあと、魂になっても、なお、誰よりも愛する人の幸せを願っているのです。

そのことをどうか忘れないでください。

あなたが幸せに笑顔で生きることが、亡き愛する人の一番の願いなのです。

 

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